AIは「実験」から「P/Lの主役」へ
2025年後半から2026年初頭にかけてのIT関連業界は、かつてない局面を迎えています。パンデミック後のデジタル需要の揺り戻しを経て、市場は完全に「生成AI(Generative AI)の実装と収益化」というフェーズに移行しました。
主要各社の決算資料(2025年Q3〜)で驚かされたのは、その投資額の桁違いな規模です。Microsoft、Amazon、Alphabet、Metaのいわゆるハイパースケーラー4社の設備投資額(Capex)合計は、なんと四半期だけで1,134億ドル(約17兆円)。前年同期比で75%増という異常な数値です。
「AIバブル崩壊」なんて言葉も囁かれますが、決算数字を見る限り、彼らはブレーキを踏むどころかアクセルをベタ踏みしています。なぜか? それは既に「クラウド収益の再加速」という形で、投資のリターンが見え始めているからです。
一方で、日本企業はどうでしょうか。日立やソニーといったプレイヤーは、米国勢とは全く異なる「勝ち筋」を見つけています。
決算データの中から押さえておくべきポイントを抽出し、2026年のテック業界の地図を整理してみたいと思います。
米国勢の「力でごり押し」なAI戦略
NVIDIA:AIエコノミーの絶対王者
まずは「AIの心臓」を握るNVIDIAです。2026会計年度Q3(2025年8~10月)の売上高は570億ドル(前年同期比62%増)。利益率(グロスマージン)は73.6%。製造業としては信じられない高収益です。
注目すべきは、データセンター部門が売上の90%を占めている点です。かつてのゲーミングGPUメーカーという姿はもうありません。MicrosoftやMetaといった巨大顧客が、チップ単体ではなく、サーバーやネットワークを含めた「フルスタックのAIスパコン」として同社製品を爆買いしているのです。
次世代チップ「Blackwell」の需要も供給を上回る状態が続いており、2026年もNVIDIA一強体制は揺るぎそうにありません。
Microsoft:最もバランスの取れた「優等生」
Microsoftの強さは、AIを「インフラ(Azure)」と「アプリ(Office 365)」の両方で収益化できている点にあります。
Azureの成長率は前年同期比約40%。競合のAWS(20%)やGoogle Cloud(34%)と比べても頭一つ抜けています。顧客がAIモデルを動かすためにAzureを選んでいる証拠です。さらに、「Copilot for Microsoft 365」が企業の現場に浸透し始め、ユーザー単価(ARPU)を引き上げています。巨額のAI投資を行いながらも営業利益率が上昇している(営業レバレッジが効いている)のは、経営の手腕として見事と言うほかありません。(2026年夏頃に控える値上げは勘弁してほしいところですが。。)
Google (Alphabet):クラウドがついに「稼ぎ頭」へ
Googleにとって歴史的な転換点となったのが2025年Q3でした。Google Cloudの営業利益率が約24%に達し、かつてのお荷物部門が完全に「稼げる柱」へと成長したのです。
これは、自社開発のAIチップ「TPU」の効果が大きいでしょう。NVIDIAのGPUだけに頼らず、自前のインフラでコストをコントロールできている。検索広告も「AIモード(生成AIによる回答)」の導入で広告収入が減るのでは?という懸念を跳ね返し、16%増収と堅調です。検索とクラウドの両輪が噛み合い始めたGoogleは、2026年、再び恐ろしい存在になりそうです。
Amazon (AWS) & Meta:独自路線を行く巨人たち
Amazonは、AWSの成長再加速(+20%)に加え、独自のAIチップ「Trainium/Inferentia」への投資を強化しています。NVIDIA製GPUが高騰する中、「コスパの良いAIインフラ」を求める顧客を取り込む戦略です。
一方のMetaは、唯一無二の「AIオープンソース戦略」を取っています。自社開発のLLM「Llama」を無料で公開し、世界中の開発者を味方につける。これで直接儲けるのではなく、FacebookやInstagramのレコメンド精度を極限まで高め、広告単価を吊り上げる(+10%)。一見遠回りに見えますが、Family of Apps部門の利益率49%という数字を見れば、この戦略が正解であることは明らかです。
日本勢の活路は「フィジカルAI」にあり

米国勢の力押しに日本企業はどう対抗するのか?米国勢と同じ土俵でLLM開発競争をしても分が悪いですが、彼らにはAIを動かすための「物理的な基盤」があります。
日立製作所:AIが電力インフラを逼迫させる
日立製作所の好調を支えているのは、もはや家電ではありません。「送配電(エナジー)」部門です。
生成AIの普及でデータセンターが乱立し、世界中で電力が足りなくなっています。変圧器や高圧スイッチギアといった電力インフラ機器への注文が殺到しており、日立エナジーの受注残高は積み上がる一方です。
また、DX支援事業「Lumada(ルマーダ)」も利益率13%超と高収益化しており、ITとインフラを組み合わせた独自のポジションを確立しています。
ソニーグループ:イメージセンサーの復権
ソニーはゲーム事業で苦戦(Bungie買収の減損など)していますが、それを補って余りあるのが「イメージセンサー」です。iPhone等のハイエンドスマホ向け大判センサーの歩留まりが改善し、大幅増益を牽引しています。
AIが現実世界を認識するには「目」が必要です。自動運転しかり、ロボットしかり。ソニーのセンサー技術は、フィジカルAI時代の必須パーツとして、2026年も高い需要が見込まれます。
ソフトバンクG:守りから攻めへ
長い冬の時代を経て、ソフトバンクグループも黒字転換を果たしました。その中心にあるのはやはりAI。傘下のArmがAIデータセンター向けCPUで存在感を増しているほか、OpenAIへの直接投資も報じられています。孫正義会長が掲げる「ASI(人工超知能)」に向け、再び攻めの投資サイクルに入ったと言えるでしょう。
まとめ:2026年は「実需」を見極める年
2026年のITセクターを見る上で重要なのは、「AIは儲かるのか?」という問いへの答えです。
ハイパースケーラーの決算を見る限り、インフラ層(チップ、クラウド)では既に莫大なリターンが生まれています。次は、その上で動くアプリケーション層で誰が覇権を握るかです。
そして忘れてはならないのが、AIを支える「物理層」です。電力がないとAIは動かない。目(センサー)がないとAIは外の世界を見られない。
この「実需」に基づいた二極化がさらに進む一年になると予想しています。地味だけどなくてはならない日本企業の技術が、回り回って世界のAIを支えている。そんな構図がより鮮明になるのが2026年ではないでしょうか。


