経済産業省が公開した「デジタル経済レポート:データに飲み込まれる世界、聖域なきデジタル市場の生存戦略」をご存じでしょうか。
かなり膨大なページのレポートですが、内容が濃くデータも豊富で非常に面白い内容です。しかし、内容を理解するには難しいところも多く途中で断念した方も多いかもしれません。
そんな方におすすめなYoutube動画が公開されました。
プロジェクトリーダー経産省 津田氏が優秀すぎ
以下の動画には本レポートのプロジェクトリーダーである、経済産業省情報経済課の津田通隆氏が出演し、レポートのポイントをかいつまんで解説されています。
この動画を観てからあらためてレポートを読むと理解が早いと思います。
動画を観ていただければ分かりますが、津田氏が超優秀な方で驚きました。デジタル赤字というワードが気になる方、今後日本はどうなるの?と気になる方はぜひ観てください。
レポートと動画について簡単にまとめ
日本のデジタル経済が抱える深刻な課題、特に「デジタル赤字」とその背景にある構造問題に焦点を当てた、経済産業省のレポートに関する議論をまとめたレポートについて、動画では、問題提起、構造分析、国際比較、処方箋、そしてレポートのプロジェクトリーダーの視点で展開されています。
以下、少しだけまとめてみました。ぜひレポート本編と動画を観ることをおすすめします。
日本の「デジタル赤字」が示す構造問題
最初に日本のデジタル赤字という衝撃的な問題提起から始まります。
現在、私たちが利用する多くのITサービス、例えばYouTubeやオンライン会議、クラウドサービスなどは海外企業のものが大半であり、その利用料は海外への赤字として流出しています。
この問題に強い危機感を持った経済産業省の若手官僚たちが、100ページ以上にわたる詳細なレポートを作成し、これが国会でも議論されるなど大きな反響を呼んでいます。
広義のデジタル赤字、特に「隠れデジタル赤字」を含めると、その規模は45兆円に達する可能性があると推計されています。このままでは日本の経済の屋台骨がデジタルによって崩壊する未来があり得ると警鐘を鳴らしています。
レポートは「若手新政策プロジェクト」として「PIVOT(ポリシーイノベーションズ)」と名付けられており、政策を根本から転換する必要があるという強いメッセージが込められています。
デジタル経済の到来と日本の立ち位置
レポートの副題は「データに飲み込まれる世界 聖域なき市場の製造戦略」とされており、ここには二つの重要なメッセージがあります。
一つは市場環境に関する「聖域なきデジタル市場」、もう一つは技術パラダイムに関する「データに飲み込まれる世界」です。
日本はこの新たな世界において周回遅れとなっているのが現状です。
AIの登場により、これまで扱いが難しかった製造業の図面のような、非構造化データも容易に扱えるようになり、ソフトウェアの可能性が大きく広がりました。
ソフトウェアは基本的にデータ構造とアルゴリズムで構成されますが、AI時代においてはデータがその根幹をなしています。
現在ではソフトウェアやサービスを売るためにハードウェアが存在する、という構造に変化しています。
従来のデジタル赤字の推計方法としては、日本銀行が作成したレポートに基づくモデルがありました(日銀モデル)。これは国際収支統計に基づき、企業の外面情報から推計するものでしたが、「品質のばらつき」「デジタル以外の項目の混入」「目的外使用ができない」といった課題があり、正確な実態把握や政策提言に限界がありました。
今回のレポートでは、より再現性の高い「PIVOTデジタルサービス収支推計モデル」が新たに開発されました。新モデルでは8つの事業区分に細分化し、より高い解像度で分析を行っています。
レポートは、このデジタル赤字の数字そのものよりも、それが顕在化させた日本の産業構造、すなわち産業のポートフォリオの問題こそが本質であると指摘しています。
国際比較と日本の課題
レポートでは主要国のデジタル赤字の状況を比較分析しています。
各国を「開発要因」(イノベーション力など)と「市場要因」(マーケット規模など)で分類すると、四つの象限に分けられます。米国と中国は巨大な自国市場と高い開発力を併せ持つ「先進大市場型」です。
英国、韓国、イスラエル、北欧などは国内市場が小さいため、グローバル市場を目指す「国際市場進出型」です。
アイルランドやシンガポールは「外資誘致型」、インドは「低コストオフショア型」に分類されます。
日本は、市場規模が中途半端に大きいがゆえに、米国や中国と同じ「先進国型の自国市場型」の戦い方をしてしまっていると指摘されています。国内市場で一定の規模が確保できてしまうため、企業が積極的に海外市場を目指すインセンティブが働きにくいのです。
さらに、AI革命が進展すれば、日本の強みであるSI領域も解体されていく可能性があり、デジタルサービス分野での日本の「食い扶持」が本当になくなってしまうという危機感が示されています。
日本が取るべき戦略と今後の展望
このような状況に対し、レポートでは日本のデジタル経済の再生に向けた処方箋が提示されています。
経済産業省としては、このレポートを問題提起の出発点とし、今後、具体的な「良い打ち手」を検討していく方針です。
デジタル赤字の背景にある構造問題は長年指摘されてきた複雑な問題であり、政府だけでなく民間の関係者とも深く議論しながら、最適な政策を見定めて政府に提言していく考えです。
今後、多くの人がこの問題を認識し、関心を持つことが、政策決定や政治家の問題意識にもつながり、解決に向けた推進力となることが期待されています。
津田氏おすすめの書籍
最後に津田氏がおすすめする書籍について紹介されていました。
このような複雑で答えのない問題に取り組む上での自身の視点や、影響を受けた書籍として、高松智史氏の「「答えのないゲーム」を楽しむ思考技術」と石井光太郎氏の「会社という迷宮」です。
「答えのないゲーム」を楽しむ思考技術は読んでいなかったので、早速注文しました。
優秀な若手の方がどんどん活躍され、豊かな日本が実現すれば良いなと思います。そのためには現状をしっかり把握して、問題に取り組んでいく必要があるなと感じました。