試験制度が「歴史的転換」を迎える
ITエンジニアの登竜門である「情報処理技術者試験」が、かつてない規模の変革期にあります。
単なる形式変更ではありません。「国がどのようなIT人材を求めているか」というメッセージそのものが変わろうとしています。
まずは、発表されている制度変更の事実関係(ファクト)を整理し、そこから見えてくるキャリアの正解について考察します。
何が変わるのか?(ファクトの整理)
変更は2段階で進行します。2026年度の「形式の変化」と、2027年度の「中身の変化」です。
① 2026年度:完全CBT化と「手書き」の廃止
これまで紙と鉛筆で行われていた応用情報技術者試験や高度試験(ネットワークスペシャリスト等)が、パソコンで受験する「CBT方式」に完全移行します。
これにより、年1回の決まった日ではなく、一定期間内で好きな日時に受験できるようになります。また、論文試験もキーボード入力になるため、「手書きで手が痛くなる」という物理的な苦痛から解放され、より論理構成や中身が問われる試験へと進化します。
② 2027年度:試験区分の統合・再編(予定)
より本質的な変化はこちらです。現在細分化されている高度試験区分が統合され、「プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮)」として再編される計画があります。
具体的には、従来の縦割りの区分(NW、DBなど)が、より大きな3つの領域(マネジメント、データ・AI、システム)などに集約される見込みです。
これは、専門分野ごとの「縦割りエンジニア」ではなく、領域をまたいで活躍できる人材を育成したいという意図の表れです。
求められる「T型人材」「フルスタック人材」とは?
この再編のキーワードとなっているのが「T型人材」や「フルスタック人材」です。言葉はよく聞きますが、改めて定義しておきましょう。
T型人材 (T-Shaped Talent)
アルファベットの「T」の形のように、「一つの深い専門性(縦軸)」と「幅広い周辺知識(横軸)」を併せ持つ人材のことです。
例えば、「データベースに関しては誰にも負けない(縦軸)」が、「クラウドインフラやフロントエンドの知識も広く浅く持っている(横軸)」ため、チーム全体を見渡した設計ができるエンジニアを指します。
フルスタック人材 (Full-Stack Talent)
元々はWeb開発において、フロントエンド(画面)からバックエンド(サーバー処理)、インフラまで「一人で全層(スタック)をこなせる」エンジニアを指していました。
現在では意味が拡張され、AIの実装からビジネスモデルの構築まで、複数の専門領域を「実務レベル」で兼務できるスーパーエンジニアを指すことが多くなっています。
日本の現場でその理想は通用するのか?
国がこうした人材を求める背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)やアジャイル開発の普及があります。しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。
「流動性の低い日本の組織で、フルスタック人材は幸せになれるのか?」という問題です。
欧米のように「スキル=市場価値」が直結し、給与が2倍、3倍になる世界なら、フルスタック化は最強の生存戦略です。
しかし、メンバーシップ型雇用が根強い日本企業において、中途半端に「何でもできます」と言うことは、「便利屋として使い潰されるリスク」と背中合わせです。
給与テーブルが変わらないまま、インフラもアプリも顧客対応も任される。「君、できるよね?」の一言で、専門外のタスクが積み上がっていく。そんな未来も容易に想像できます。
目指すべきは「越境する専門家」

将来、日本社会がどのように変化するのか、予想できない部分はありますが、現状を見る限り、私たちが目指すべきは「無邪気なフルスタック」ではなく、「軸足のしっかりしたT型」だと考えます。
2026年までのCBT化の間に、まずは自分の「縦軸(強み)」となる高度試験を確実に取っておく。その上で、2027年以降の新制度に合わせて「横軸」を広げていく。
「何でも屋」ではなく、「隣の領域の言葉がわかる専門家」としてのポジションを確立することこそが、変化の激しい過渡期を生き抜く最適解ではないでしょうか。
また、日本企業の経営層は「幅広いスキルを身につけろ!」と要求するばかりではなく、見合った報酬と活躍できるフィールドを提供できるかどうかが、企業成長につながる重要な要素となりそうです。


